今回は、基礎インスリン(トレシーバ)とGLP-1受容体作動薬(ビクトーザ)の合剤「ゾルトファイ配合注」の紹介です。
この投稿ではゾルトファイ配合注につき糖尿病専門医が分かりやすく解説をします。
この投稿でわかること
・ゾルトファイの基本情報が理解できる
・ゾルトファイ(基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬の併用)の意義が分かる
・ゾルトファイの効果、副作用が理解できる
・ゾルトファイをどのような人に使うべきかが分かる
基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬、理想的な組み合わせです!
現状の治療でもう一歩な多くの患者さんに提案しやすい、実に良く作られた薬だと思います。
ゾルトファイの基本詳細
基本事項
商品名 | ゾルトファイ配合注®フレックスタッチ |
一般名 | インスリンデグルデク(トレシーバ®)・リラグルチド(ビクトーザ ® ) |
単位 | 1ドーズ(1ドーズ=トレシーバ1単位・ビクトーザ0.036mg) |
適応症 | 2型糖尿病 |
用法用量 | 通常10ドーズ/日で開始(最大50ドーズ/日) |
製造販売元 | ノボノルディスクファーマ |
価格 | 5359円(1本300ドーズ) |
薬価
ゾルトファイ(1本300ドーズ) | 5359(円) |
トレシーバ(1本300単位) | 2343(円) |
ビクトーザ(1本18mg) | 10359(円) |
ゾルトファイに配合されているトレシーバ(300単位)・ビクトーザ(10.8mg)を別々に使用した場合
2343(トレシーバ300単位)+(10359÷18×10.8)(ビクトーザ10.8mg)=8558.4(円)の薬価になります。
ゾルトファイにすることで薬価が5359(円)になります。
薬価がなんと約6割!
合剤にすると安くなるね!
基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬は理想的な組み合わせ!
基礎インスリンは主に「空腹時血糖」を下げる為に使用します。
基礎インスリンを単独で使用する場合、朝食前血糖値を目安にしてインスリン量を調整していきます。
このような場合、食後血糖は低下せずに高い状態のままです。
食後血糖を下げずに空腹時血糖値のみを下げようとすると、どうしてもインスリン量が増えがちとなり、昼食前・夕食前に思いがけず逆に血糖が下がり過ぎる「低血糖」が生じることがあります。
GLP-1受容体作動薬については、「食後血糖(及び空腹時血糖)」を低下させます。
GLP-1受容体作動薬を単独で使用する場合、空腹時血糖値がコントロールできないケースが多いです。
効果不十分な場合にGLP-1受容体作動薬の量を増やすこともありますが、薬価が高額であること、消化器症状の副作用により増量ができないケースが多いです。
空腹時血糖が高い状態のままだとGLP-1受容体作動薬の効果が十分に発揮されず、血糖コントロールが改善しません。
そこで両者の併用です!
ゾルトファイ注(基礎インスリン・GLP-1受容体作動薬の両者の併用)は空腹時・食後血糖をバランス良く低下させることが可能です。
インスリンには体重増加・低血糖のリスクがありますが、GLP-1受容体作動薬を併用することで体重増加のリスクが軽減されます。
これはインスリンの使用量が軽減し、またGLP-1受容体作動薬による体重減少効果がうまく作用する為です。
また空腹時・食後の血糖値をバランス良く低下させることから低血糖のリスクも軽減されます。
おまけに1日1回で治療が可能!!ゾルトファイは実に良く作られた治療薬です。
ゾルトファイの効果・副作用
実際のゾルトファイの臨床データの紹介です!
臨床試験の概要
試験概要 | DUAL I Japan 試験(国内第3相臨床試験) |
---|---|
意義 | ゾルトファイ vs トレシーバ vs ビクトーザ 三つ巴のガチンコ勝負 |
対象 | 日本人2型糖尿病患者 819人 |
選択基準 | ・20歳以上 ・HbA1c:7.0~11.0% ・BMI:20以上 ・経口血糖降下薬単剤*による安定した治療を受けている (*メトホルミン、αGI、TZD、SU、SGLT-2阻害薬、グリニド薬) |
薬剤 | ゾルトファイ(+前治療の経口血糖降下薬) |
比較対象 | トレシーバ (+前治療の経口血糖降下薬) ビクトーザ(1.8mg) (+前治療の経口血糖降下薬) |
観察期間 | 52週間 |
ポイント | 上記患者さんをゾルトファイ群・トレシーバ群・ビクトーザ群に無作為に割り付けして52週間観察しています。 ゾルトファイ群・トレシーバ群は朝食前血糖値が72~90mg/dlの間に入るように1週間に2度の頻度で投与量を調整しました。 ビクトーザ群は0.3mg/日から開始、1週間毎に0.3mgのペースで1.8mg/日まで増量しています。 もともと服用していた飲み薬は変更していません。 |
試験概要 | DUAL II Japan 試験(国内第3相臨床試験) |
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意義 | ゾルトファイ vs トレシーバ のガチンコ勝負 |
対象 | 日本人2型糖尿病患者 210人 |
選択基準 | ・20歳以上 ・HbA1c:7.5~11.0% ・BMI:23以上 ・基礎インスリンまたは混合型/配合溶解インスリン製剤(20-50単位) ・メトホルミン±経口血糖降下薬1剤* (*αGI、TZD、SU、SGLT-2阻害薬、グリニド薬) |
薬剤 | ゾルトファイ(+メトホルミン) |
比較対象 | トレシーバ(+メトホルミン) |
観察期間 | 26週間 |
ポイント | 上記患者さんをゾルトファイ群・トレシーバ群に無作為に割り付けして26週間観察しています。 ゾルトファイ群・トレシーバ群は朝食前血糖値が72~90mg/dlの間に入るように1週間に2度の頻度で投与量を調整しました。 併用する飲み薬はメトホルミンに限定しています。 |
ゾルトファイの効果
基礎インスリン治療群(トレシーバ)・GLP-1受容体作動薬治療群(ビクトーザ:1.8mg)と比べて、両者の併用治療群(ゾルトファイ)の方が、血糖をより改善させることが一目瞭然です。
基礎インスリン治療群(トレシーバ)では体重が大きく増加しています。これがインスリンのデメリットです。
GLP-1受容体作動薬治療群(ビクトーザ:1.8mg)は体重が低下しています、GLP-1受容体作動薬の大きなメリットです。
それには及びませんが、併用治療群(ゾルトファイ)では、インスリンによる体重増加をうまく打ち消している結果です。
ゾルトファイの副作用
基礎インスリン治療群(トレシーバ) では、空腹時血糖値を目安に無理にインスリン量をUPさせる結果、低血糖のリスクが大きくなります。
併用治療群(ゾルトファイ)は、空腹時・食後血糖をバランスよく低下させる結果、トレシーバと比較して低血糖リスクが大幅に軽減しています。
GLP-1受容体作動薬治療群(ビクトーザ)については、低血糖はほとんど生じません。
GLP-1受容体作動薬については非常にいい薬剤ではあるものの、代表的な副作用に消化器症状があり注意が必要です。
併用治療群(ゾルトファイ) はインスリン併用の結果、GLP-1受容体作動薬の使用量が少なくなる為、 GLP-1受容体作動薬治療群(ビクトーザ:1.8mg)と比較して、消化器症状の頻度が低くなっています。
基礎インスリン治療群(トレシーバ) ではほとんど生じない副反応であり、ゾルトファイ使用時にも注意が必要です。
ゾルトファイをどんな人に使用するべきか?
ゾルトファイは空腹時血糖・食前血糖を1日1回の注射でバランス良く改善させることが可能です。
ゾルトファイの治療をお勧めできる人
✓ 基礎インスリン1回打ち(+飲み薬)でコントロールが困難な人
✓ GLP-1受容体作動薬(+飲み薬)でコントロールが困難な人
✓ インスリン治療を複数回(2-4回)行っていて注射回数を減らしたい人(下図参照)
✓ インスリン治療によるデメリット(低血糖 ・体重増加)でお悩みな人
一方で、GLP-1受容体作動薬については膵臓のインスリン分泌能がある程度保たれていないと効果が期待できないことから、インスリン分泌が少ない方(特に1型糖尿病の方)には効果が期待できません。
まとめ
- ゾルトファイは基礎インスリン(トレシーバ)とGLP-1受容体作動薬(ビクトーザ)の合剤
- 1日1回の投与で空腹時、食後血糖をバランス良く低下させることが可能
- 基礎インスリン治療のデメリット(低血糖・体重増加)を、GLP-1受容体作動薬でカバー
- GLP-1受容体作動薬のデメリット(消化器症状)を、インスリン併用にてカバー
- 単独の治療で上手くコントロールできていない人は是非切替を検討しよう!
- インスリン注射回数を1日1回に減らすことが可能かも!?
東海市加木屋町(南加木屋駅徒歩3分)に開院予定の「糖尿病・甲状腺 加木屋たけうち内科」では、積極的に新しい治療を取り入れ、皆さんの糖尿病ライフをより豊かなものにしていきたいと思っています。
2022年5月に開院が決まりました、どうぞよろしくお願いします!
コメント
コメント一覧 (2件)
リベルサス7mgとビクトーザ0.6mgの併用は可能でしょうか?
朝一空腹時投与しているのですが、問題ありますでしょうか?
よろしくお願いします。
シゲ 様
お世話になります。
ご質問ありがとうございます。
>リベルサス7mgとビクトーザ0.6mgの併用は可能でしょうか?
朝一空腹時投与しているのですが、問題ありますでしょうか?
リベルサスの投稿ページにてシゲ様へご返信させて頂いた通りですが改めてコメント致します。
リベルサス・ビクトーザともに同じGLP-1受容体作動薬です。
同じGLP-1受容体作動薬の併用は通常私は行わない保険外治療になります。
より良い効果を求める場合にはどちらか一方の薬の容量を増やす(リベルサスは14mg、ビクトーザは1.8mg/日まで増量が認められています)、もしくは別の効果が高い注射(オゼンピック注)を推奨します。
併用については担当の先生に相談していただくことが肝要です。
療養頑張って下さいね。