新型コロナウイルス感染症の発生から、(2021年9月現在)約1年半が経過しました。
感染力が強い変異株(デルタ株)が2021年9月現在猛威を振るい、愛知県内でも感染者が大幅に増加しています。
ワクチンの変異、諸外国の感染が再燃している状況を鑑みると、ワクチン頼み一辺倒では安心できません。
ウィズコロナ時代の現在は、これまで以上に糖尿病・肥満・高血圧などの基礎疾患の管理が大切です。
糖尿病患者さんがこのコロナ禍をどう乗り切っていけばよいか、糖尿病専門医としての考えを投稿します。
この投稿で分かること
✓ 糖尿病と感染症の関係が分かる
✓ 糖尿病患者は新型コロナウイルス感染症にかかりやすいか、重症化しやすいかが分かる
✓ 糖尿病患者さんが新型コロナウイルス感染症に罹った時の注意点を理解できる
✓ コロナに負けないために今何をすべきかが分かる
こんな状況だからこそ、自分たちがやれることを地道に頑張りましょう!
※今回の内容は日本糖尿病学会の
「糖尿病と新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」を参考にしています。
糖尿病と感染症の関係
糖尿病の患者さんは一般的に感染症にかかりやすく重症化しやすいです。
注意が必要です。
【理由1】好中球の働きの低下
好中球は白血球の成分のひとつで、体内に細菌やウイルスが侵入すると、それを取り囲んで食い殺します。血糖値が高くなると、好中球の【遊走能・接着能・貪食能・殺菌能】が低下してしまい、細菌・ウイルスが体内で増殖しやすくなります。
【理由2】免疫反応の低下
一度感染した病原体に対し、体内でそれに対する抗体が作られ、次に同じ病原体がからだに侵入しようとしたときに、それを防ぐように働く仕組みを免疫と呼びます。高血糖状態では、この【免疫反応】も弱くなっています。
【理由3】 血流の悪化
高血糖では、細い血管の血流が悪化します。このような状態では、酸素や栄養が十分に行き渡らず、細胞の働きが低下したり、白血球が感染部位に到達しにくくなって、感染しやすくなります。感染で受けたダメージの回復にも時間がかかりますし、抗生物質などの薬が感染部位に到達しにくいため、薬の効果が弱くなります。
糖尿病患者は新型コロナにかかりやすいのか?
【根拠1】2020 年 8 月 31 日に発表されたメタアナリシスの論文
中国のみならず欧米における新型コロナウイルス感染者における糖尿病の有病率は、一般市民における糖尿病の有病率と比べて総じて高くはないことが示されている 。
Acta Diabetol 57, 1275-1285, doi:10.1007/s00592-020-01586-6 (2020)
【根拠2】日本の新型コロナ感染による入院患者 2,638 人に関するデータ
・患者の平均年齢 56 歳
ー合併症を有さない糖尿病有病率が14.2%
ー合併症を有する糖尿病有病率が2.5%
・50 歳代の糖尿病の有病率(国民健康・栄養調査より)
約12%(男性 17.8%、女性 5.9%)
ほとんど割合が変わらず、糖尿病だから新型コロナウイルス感染症になりやすいとは言えません。
Clin Infect Dis, doi:10.1093/cid/ciaa1470 (2020)
糖尿病の方でコロナに感染しやすくなる事実は現時点ではありません。
過度な心配は不要です。
糖尿病は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクなのか?
新型コロナ感染症に関連する 33 の研究 (16,003 名)のメタ解析
・糖尿病を有する新型コロナ患者では新型コロナの重症化や死亡のリスクが 2 倍程度にまで上昇する
Diabetes Metab Syndr 14, 535-545, doi:10.1016/j.dsx.2020.04.044 (2020)
日本の新型コロナ感染症による入院患者 (2,638 人)に関する検討
【糖尿病を持っている患者さんの割合】
ー非重症例の10.3%
(非重症患者 1798名のうち185名)
ー 重症例の22.5%
( 重症患者 840名のうち189名)
Clin Infect Dis, doi:10.1093/cid/ciaa1470 (2020)
▶重症例では糖尿病患者さんの割合が多いことから、糖尿病患者さんは重症化リスクが高いと考えられます。
糖尿病患者が感染した場合、重症化・死亡リスクが上昇します。。
重症化の理由
✓ 高血糖による好中球の遊走能・貪食能の低下
✓ 生体内の Angiotensin-converting enzyme-2 (ACE2)発現の変化
✓ タンパク質転換酵素Furinの血漿中の増加
✓ 免疫系細胞であるT細胞機能の低下
✓ 炎症性サイトカイン(IL-6)の増加
✓ 凝固系( D-ダイマー)の増加
などが関連している可能性が指摘されている。
基礎疾患【糖尿病・肥満・喫煙・高血圧】には要注意!
2021年2月末までに日本でコロナを理由に入院した患者7373人(うち集中治療室に入室した重症化患者は185人 )を調査した結果、下記の4要因が新型コロナの重症化リスクに関わってくることが明らかになりました。
疾患 | 重症化リスク | 詳細 |
---|---|---|
糖尿病 | 3.4倍 | 糖尿病治療薬の服薬者。 対照群は非服薬者。 |
肥満 | 1.8倍 | 体格指数(BMI)が25以上。 対照群はBMI 18.5~24.9の普通体重。 |
喫煙 | 1.6倍 | 喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)400以上。 対照群は喫煙指数0~399。 |
高血圧 | 1.6倍 | 高血圧治療薬の服薬者。 対照群は非服薬者。 |
糖尿病自体の重症化リスクが最も高いです。
おまけに糖尿病患者さんは肥満・高血圧も合併していることが多い為、非常に危険です。。
糖尿病の人がコロナに罹ったらどんなことに注意すべき?
糖尿病の自分がもしもコロナに罹ったら、どんなことに気をつければいいですか?
あまり考えたくはないことですが、備えは大事です!
予め対応策につき心得ておきましょう。
糖尿病患者が、感染症などによる発熱、下痢、嘔吐や食欲不振のために食事が摂れない状態を「シックデイ」と呼びます。
「食事が摂れないと血糖値は下がるから心配いらない」と誤解されがちですが、 急性のストレスによりインスリン拮抗ホルモン(インスリンの働きを邪魔するホルモン)が分泌される結果、食事が摂れないにも関わらず血糖が大幅に悪化することが多いです。食事が摂れないのに糖尿病の薬をそのまま飲んでしまうと低血糖のリスクも高まります。
新型コロナウィルス感染症ももちろんシックデイの原因となる為、適切な対処が行われなければ、大幅な血糖悪化に伴い重篤な状態に陥る可能性もあります。
後述の「シックデイルール」 を徹底しましょう!
- 安静と保温につとめる
- スープなどで十分に水分を摂り、口当たりがよく消化しやすいお粥やうどんなどで炭水化物を摂取する
- インスリンは自己判断 で中断しない
- 糖尿病の飲み薬を使っている患者は、調整が必要な場合がある【後述】
- (可能なら)こまめに血糖自己測定 をして、血糖値と病気の状態を確認する
こんな時は速やかにかかりつけ医に相談を!
① 発熱・消化器症状が強いとき
② 24 時間以上飲食ができないとき
③ 350 mg/dL 以上の高血糖が持続、(測定できる人は)尿中ケトン体強陽性のとき
④ 意識状態に悪化がみられるとき
コロナ罹患時の糖尿病治療薬はどうする?
シックデイ時の糖尿病のくすりはどうすべきですか?
いい質問だね。
主治医の先生と予め相談しておきましょう!
まず最初にくれぐれも自分の判断での内服・注射を中断しないように!
症状が軽く飲食が十分可能な場合は、通常通りに糖尿病薬を服用すれば大丈夫です。
ただ軽症でも「食事摂取が困難な場合」には糖尿病治療薬の調整が必要です。
糖尿病治療薬 | シックデイ時の対応 |
---|---|
インスリン | インスリン治療がベスト <詳細> ・基礎インスリン(持効型・中間型インスリン)は通常量で続行 ・追加インスリン(超速効型・速効型インスリン)は食事量・血糖値に応じて調整、高血糖持続時には追加インスリンを少量追加投与 ・混合型・溶解配合インスリン(基礎)は食事量に応じて調整 |
GLP-1受容体作動薬 | 中止(消化器症状の悪化、皮膚からの薬剤吸収が悪くなるため) |
ビグアナイド薬 | 中止(乳酸アシドーシスという怖いリスクがあるため) |
チアゾリジン薬 | 中止(体液貯留による呼吸不全の増悪を起こす危険性があるため) |
α-グルコシダーゼ阻害薬 | (食事摂取不良・消化器症状が強い場合)中止 |
SGLT2 阻害薬 | 中止(正常血糖アシドーシス・脱水のリスクがあるため) |
DPP-4 阻害薬 | 比較的安全に継続可 |
SU 薬 | 減量もしくは中止(経口摂取不良による低血糖リスクがあるため) |
グリニド薬 | 減量もしくは中止(経口摂取不良による低血糖リスクがあるため) |
配合薬 | 含有成分に応じて対応 |
食事摂取が困難な時は、副作用の懸念から多くの糖尿病治療薬の服用が難しくなります。上表を参考に薬を中止しましょう。
インスリン治療が本来はベストの治療が、インスリンを使用していない方も多いと思われます。
飲み薬の中では、DPP-4阻害剤については比較的安全に継続できる薬です。
コロナに負けないために「今」何をすべき?
ではコロナに負けない為に私達に何ができるでしょうか?
感染対策の徹底
ウィズコロナ時代に生まれた新しい生活様式を今後しばらくは継続する必要があります。
・手指衛生、目口鼻の防護、他人との距離を保つこと
・密集、密閉、密接の「3 密」を避ける
当たり前のことですが、しっかり継続していきましょう。
ワクチン接種
現在日本ではmRNAワクチン2種(ファイザー社・モデルナ社)、ウイルスベクターワクチン1種(アストラゼネカ社)の接種が可能です。
いずれのワクチンであっても臨床試験において非常に高い有効率が報告されています。
ワクチン接種による副反応はもちろんありますし、長期的な安全性に対して不透明な部分があるのは紛れもない事実です。
ワクチンの有効性が低下する危惧がある変異株も登場しています。
しかしながら各国、そして日本においてもワクチン接種者の重症化・死亡が軽減しているのは揺るぎない事実です。
現状得られている科学的データに基づいて冷静に判断する限りでは、ワクチン摂取により得られるメリットは、(可能性がかなり低いと考えられる)デメリットを大幅に上回ると考えます。
特に、今回あげた重症化リスクが高い基礎疾患をもたれる方は、積極的にワクチンを打つべきと私自身は考えています。
重症化リスクの高い糖尿病患者さんは、ワクチン接種が大切です!
免疫力を高める5選
自分自身の免疫力を高め、新型コロナウイルス感染症に負けない身体を保つことが実は一番大切です。
1.適度に運動をする
2.入浴をとる
3.質の良い睡眠をとる
4.食事に気を配り腸内環境を整える
【おすすめ食材】
・茶色い炭水化物(全粒粉、大麦、オート麦、ライ麦、キヌア、玄米、雑穀類、そば粉)
・発酵食品
・オリゴ糖
・水溶性食物繊維
5.ストレスを避ける・よく笑う
コロナ禍が長期化しストレスが多い日々が続きます。テレビをつければ不安を煽る報道ばかりです。
こんな時だからこそストレスをためずに適度に運動して、入浴をして、しっかり睡眠をとりましょう!
基礎疾患(特に糖尿病)のコントロール
コロナ禍による上記問題点により、糖尿病・肥満のコントロールが悪化しています。
糖尿病の管理はコロナに負けない為に間違いなく大切です!
どれくらいのコントロールが大切ですか?
イギリスの一般診療所に登録されている糖尿病と診断された人を対象に、糖尿病と新型コロナウイルス感染症による死亡率を検討したコホート研究です。
この結果ではHbA1c値が7.5%以上になると死亡リスクが上昇し、コントロールが悪化する毎に死亡リスクがどんどん上昇する結果でした。
コロナに負けない為に、HbA1cは最低限7.5%未満を目標にする必要がありそうです。
(もちろん合併症予防には基本的にはHbA1c7%未満を目標にコントロールが大切です。)
イギリスにおける 17,278,392 名の成人を対象にした他のコホート研究
糖尿病患者の新型コロナ関連死
ーHbA1c 7.5%未満の糖尿病患者
死亡リスク1.31倍
ーHbA1c 7.5%以上の糖尿病患者
死亡リスク1.95倍
Nature 584, 430-436, doi:10.1038/s41586-020-2521-4 (2020)
この研究でも、HbA1c 7.5%を境に死亡リスクが上昇すると言われています。
まとめ
最後に本日の内容をFAQ形式でまとめました。
- 糖尿病と感染症の関係はあるか?
-
糖尿病患者は、細菌感染症にかかりやすくなったり重症化のリスクになる。
特定のウイルス感染症でも重症化のリスクと考えられる。 - 糖尿病患者は新型コロナウイルス感染症にかかりやすいのか?
-
糖尿病と新型コロナウイルス感染リスクの関係に一貫した傾向はありません。
- 糖尿病は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクなのか?
-
糖尿病は新型コロナの重症化リスク(重症化・死亡リスクが約2~3倍)です。
肥満・高血圧・喫煙も併せてリスクになります。 - 糖尿病の人がコロナに罹ったらどんなことに注意すべき?
-
シックデイルールを守る、糖尿病治療薬は自己判断で中止しない(上述)。
- コロナに負けないために「今」何をすべき?
-
感染対策の徹底、ワクチン摂取、免疫力を高める、糖尿病のコントロール(まずはHbA1c 7.5%未満)
「糖尿病・甲状腺 加木屋たけうち内科」は、ウィズコロナ時代の2022年5月に開院を目指し現在準備中です。
糖尿病・高血圧・肥満・ご高齢の方など重症化リスクの高い方々が安心して通院頂きたい、そんな想いから感染症対策を設計の段階からしっかり準備しております。
2022年5月に愛知県東海市加木屋町(南加木屋駅徒歩3分)開院予定です、宜しくお願いします。
糖尿病・甲状腺 加木屋たけうち内科
院長 竹内誠治