待望の肥満症の治療薬
がついに出ます!
ニュースで見たよ。
ウゴービって薬でしょ。
そうです!ウゴ―ビ注!
スイゾーちゃんよく勉強してるね!
肥満に悩む人には吉報だね♬
私も処方して貰えるのかしら?
肥満症(肥満+肥満に伴う健康障害)の方が適応です。
肥満症で特定の条件を満たす方のみ(後述)保険適応です。
ただ痩せたいだけの希望では
治療はうけられません。
早速解説します!
2024年2月22日に新発売されるウゴービ注ですが、減量可能な薬剤が発売される!とのニュースにより肥満に悩む多くの方が興味・関心を持たれていると思います。
ただ当面は教育認定施設である一部の総合病院/大学病院でのみ処方が可能な薬剤です。
当院ではウゴービの処方は行えません。
また投稿にも記したように、ウゴービ注の処方を受けられる患者さんの条件は厳密に定められています。
患者さんの減量希望のみでは保険診療として処方はできない薬剤です。
- ウゴービ注がどんな薬剤か理解できる
- 自分がウゴービの処方を受けられるのか
保険適応がわかる - ウゴービ注の効果が理解できる
- ウゴービ注の注意点が理解できる
ウゴ―ビ注とは
商品名 | ウゴービ注SD |
一般名 | セマグルチド |
適応症 | 肥満症 |
使用 条件 | 食事療法・運動療法にて減量ができない 以下のどちらかに該当する BMI 27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する BMI 35kg/m2以上 BMI=体重(kg)/身長(m)×身長(m) | 2型糖尿病・高血圧・脂質異常症のいずれかを有する
使用可能な 医師・施設 | 日本循環器学会・日本糖尿病学会・内分泌学会いずれかの専門医 いずれかの学会の教育認定施設(専門医育成医療機関) 複数の医療スタッフによる栄養・運動指導ができる体制が整備されている |
用法用量 | 開始量0.25mg(週1回) 0.5 1.0 1.7 2.4mgの順に増量 患者の状態に応じて適宜減量 |
薬価/本 | 1876円/0.25mg (上記は1本[1週間]、10割負担です。3割の方の月額は上記に1.2を掛けた金額になります。) | 3201円/0.5mg 5912円/1.0mg 7903円/1.7mg 10740円/2.4mg
発売日 | 2024年2月22日 |
実はオゼンピックと同じ薬
ウゴービ注は糖尿病薬「オゼンピック注」と
同じ有効成分です。
肥満症に対して新たに使用できるように体制を整え、今回「ウゴービ注」として新発売されました。
ウゴービの保険適応・処方可能施設
肥満(太っていること)は病気とは言えません、
痩せたいだけでは治療の対象にはなりません。
(肥満のせいで健康に害が及んでいる)
肥満症で、かつ下記条件に該当する場合のみ
ウゴービ注の治療が認められます。
のいずれかを有す
食事療法・運動療法を行っても
十分な効果が得らない
以下のどちらかに該当する
BMI 27kg/m2以上であり
2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
BMI 35kg/m2以上
BMI=体重(kg)/身長(m)×身長(m)
BMI = 体重kg ÷ (身長m)2
- 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
- 脂質異常症
- 高血圧
- 高尿酸血症、痛風
- 冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)
- 脳梗塞、脳血栓症、一過性脳虚血発作
- 脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患、NAFLD)
- 月経異常、不妊
- 睡眠時無呼吸症候群
- 運動器疾患:変形性関節症(膝、股関節)、変形性脊椎症、手指の変形性関節症
- 肥満関連腎臓病
またウゴービ注の処方が可能な医療施設については
当面は下記施設に限られます。
- 日本糖尿病学会・内分泌学会・日本循環器学会いずれかの専門医がいること。
- いずれかの学会の教育認定施設(専門医育成医療機関)であること。
- 複数の医療スタッフ(特に管理栄養士による食事指導)による栄養・運動指導ができる体制が整っている。
専門クリニックである当院では
1. 3. を当然に有しています。
ただ 2. 教育認定施設については
クリニックでは到底困難です。
現状総合病院などの肥満診療を専門的に行う施設に限られます。
ウゴービの減量効果(やせる理由)
ウゴービがどうして痩せるのか、
その作用機序を解説します♬
01 脳に働き食欲を抑える
ウゴービは視床下部・脳幹において食事摂取の恒常的調節に関与する脳領域に直接作用し
「満腹感を高め空腹を感じにくさせるよう」作用します。
また中隔、視床及び扁桃体を含む脳領域における直接的・間接的作用を介して報酬系にも作用し「高脂肪食や甘いものへの欲求や嗜好を低減する」作用もあり得ると食欲性の機序の1つとして考えられています。
02 胃に作用し食欲を抑える
ウゴービは胃に直接作用して
胃の蠕動運動を低下させて食欲を抑制します。
胃の蠕動運動を低下させる作用については
使用後3-6ヶ月程度でその作用が減弱し、
そこから食欲が戻ってくるケースが多いです。
03 膵臓に作用しインスリン分泌を促す
膵ベータ細胞に働きインスリン分泌を促します。
この作用は血糖依存的な経路が中心であり、
低血糖をきたすリスクは低いと考えられています。
ウゴービの効果は!?
ここでは発売前の臨床成績を紐解きながらウゴービ注の実力をみていきます!
【STEP6】
東アジア人の肥満症患者においてウゴービの実力を評価
STEP6 試験概要 | |
---|---|
目 的 | 東アジア人の肥満症患者においてウゴービの実力を評価 |
対 象 | 肥満症(2型糖尿病の有無は問わない) 東アジア人(日本人360例、韓国人41例) |
薬 剤 | ウゴービ:1.7mg 2.4mg |
比 較 対 象 | プラセボ:0.75mg プラセボ=有効成分が入っていない偽薬のこと |
試 験 デザイン | 68週間、国際共同(日本・韓国)、多施設共同(28施設) 無作為割り付け、二重盲検、プラセボ対照、並行群間試験 |
東アジア人の肥満症患者でのウゴービの実力評価です。ほぼ日本人データなので信頼できるデータです。
68週間の使用にて、
ウゴービ2.4mg群で-11.25kgの減量、
ウゴービ1.7mg群で-8.19kg減量ができています。
(内臓脂肪の量を表す)ウエスト周囲径においても
ウゴービ2.4mg群で-10.12cmの減少、
ウゴービ1.7mg群で-7.44cmの減少を認め、
強力に内臓脂肪量を減少させている結果です。
次は糖尿病患者群、非糖尿病患者群(現実には微妙に異なりますがご容赦ください。)別の血糖値への影響です。
糖尿病患者群(左)において
ウゴービ2.4mg群にてHbA1c 2.2%と
強力に血糖値を改善させています。
(血糖改善作用はウゴービ1.7mg群でもほぼ同等)
一方で非糖尿病患者群(右)においては
ウゴービによる血糖値の改善効果はごくわずかです。
この結果からウゴービの成分であるセマグルチドは前述の通り、血糖依存的にインスリン分泌を促進させ(つまり高血糖時のみ働く)、低血糖は生じづらい薬剤であることがわかります。
【STEP1】
2型糖尿病ではない肥満症患者への臨床試験
次は糖尿病じゃない方への
臨床試験だよ
STEP1 試験概要 | |
---|---|
目 的 | 2型糖尿病ではない肥満症患者においてウゴービの効果を検証する |
対 象 | 2型糖尿病ではない肥満症患者 |
薬 剤 | ウゴービ:2.4mg |
比 較 対 象 | プラセボ プラセボ=有効成分が入っていない偽薬のこと |
試 験 デザイン | 68週間、国際共同(16ヵ国)、多施設共同(129施設) 無作為割り付け、二重盲検、プラセボ対照、並行群間試験 |
次は糖尿病でない方への有効性をみる試験です。
同様にウゴービの強い減量効果が示されました。
【STEP2】
オゼンピックとのガチンコ対決
最後は糖尿病患者における
ウゴービの効果の検証。
オゼンピックとのガチンコ比較!
STEP2 試験概要 | |
---|---|
目 的 | 2型糖尿病である肥満症患者においてウゴービの効果を検証する (vs オゼンピック注1.0mg) |
対 象 | 2型糖尿病である肥満症患者 人種比率(白人75%、黒人5-6%、アジア人12-14%、その他5-6%) |
薬 剤 | ウゴービ:2.4mg |
比 較 対 象 | オゼンピック:1.0mg/週 プラセボ |
試 験 デザイン | 68週間、国際共同(12ヵ国)、多施設共同(149施設) 無作為割り付け、二重盲検、ダブルダミー、プラセボ対照、並行群間試験 |
最後に紹介するSTEP2は糖尿病患者群への投与で
ウゴービとオゼンピックの直接比較した試験です。
ウゴービ・オゼンピックとも同じ有効成分(セマグルチド)ですが、その量が大きく異なるのがポイントです(ウゴービは2.4mg、オゼンピックは1.0mg)。
つまりこの試験は投与量の違いにて体重・HbA1c値の改善効果がどう変化するかがわかります。
体重変化量(左)ですが、
ウゴービ2.4mg群がオゼンピック1.0mg群と比べて有意に体重低下を認めました。
次にHbA1c変化量(右)ですが、
ウゴービ2.4mg群とオゼンピック1.0mg群とは有意な差はありませんでした。
オゼンピックでは減量効果がもう一歩の糖尿病患者さんにおいてはウゴービ切替も検討できそうです。
逆にオゼンピック1.0mg使用してもHbA1c値はもう一歩の糖尿病患者さんにおいて→ウゴービ切替をしてもHbA1c値を改善効果の上乗せは期待できません。
他の薬剤の追加やマンジャロ注への切替・他の薬剤の追加を検討することが望ましいと思われます。
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ウゴービの注意点
消化器症状【高頻度に生じる最大の懸念点】
ウゴービは上述の通り非常に効果が期待される抗肥満薬ですが、最大の懸念点は消化器症状です。
有害事象 | ウ2.4mg群 | ウ1.7mg群 | プラセボ群 |
---|---|---|---|
胃腸障害 | 59.3 % | 64.0 | 29.7 |
便秘 | 26.1 | 19.0 | 3.0 |
悪心 | 17.6 | 18.0 | 4.0 |
下痢 | 16.1 | 22.0 | 5.9 |
嘔吐 | 8.5 | 10.0 | 2.0 |
STEP6のみならず他の臨床試験においても胃腸障害は高率に出現しています。使用後はこの副作用が問題ないことを確認しながら慎重のウゴービの投与量を増量していきますが、胃腸障害が強い場合に薬の使用継続が難しいことも多々あります。
胆道系疾患【低頻度だが起きたら危険!?】
ウゴービ注が属するGLP-1受容体作動薬は、急性胆道系疾患(胆管炎・胆嚢炎など)のリスク上昇を示唆する報告が複数なされています。今回STEP1でウゴービ2.4mg群における重篤な有害事象として、胆石症・急性胆嚢炎の報告がやはりありました。(STEP2、STEP6では報告は確認されませんでした。)
重篤な有害事象 | 件数(1306例中) |
---|---|
胆石症 | 12件 |
急性胆嚢炎 | 3件 |
医療費の問題【保険診療内なので良心的な費用!?】
ウゴービを開始した場合にかかる代表的な項目/費用は以下が考えられます。
痩心を謳う自由診療の価格と比べれば(保険適応で3割負担となるため)良心的な費用で効果が実証されている抗肥満治療を安全な医療機関において受けられると筆者は考えます(無論決して安くない費用です)。
体重が著明に減少することで、肥満症に伴う健康障害も大きく改善し種々の合併症が減ることを考えれば、日本の医療費削減に繋がるのではと期待が持たれます。
項目 | 10割の場合 | 3割負担の場合 |
---|---|---|
薬価 | 42960円/月 | 12888円 |
在宅自己注射管理料 | 6500円 | 1950円 |
導入初期加算(導入3ヶ月のみ) | 5800円 | 1740円 |
栄養相談(再診20分) | 2000円 | 600円 |
再診料 | 730円 | 219円 |
外来管理加算 | 520円 | 156円 |
低血糖の問題【非糖尿病の方へ使用も低血糖は大丈夫】
非糖尿病である肥満症患者さんへの有効性を調べた臨床試験(STEP1)においては低血糖の副作用報告は見られていません。
従来糖尿病薬として使用されていた薬剤ですが、糖尿病ではない方へも安全に使用ができそうです。
まとめ
- 肥満症に使用できる薬剤として
2024年02月22日に新登場! - 処方可能な医療機関に厳格な制限あり
(当面は教育認定施設のみ)。 - 保険適応にも厳格な制約あり。
痩せたい希望のみでは適応にならない。 - 強力な体重減少効果
【ウゴービ2.4mgで11.25kg減】 - 血糖値も強力に改善、
ただオゼンピック1.0mgと同じ程度。 - 胃腸障害(高頻度)と胆道系疾患(頻度は少ないが怖い)の副作用には注意が必要
- 非糖尿病患者への使用しても低血糖等の問題はなさそう
肥満症治療はこれまでは一部の薬剤/漢方薬しか治療手段がなく、正直なところいずれの薬剤も有効性が限定的でした。
外科治療ぐらいしか有効な手がなかった肥満症治療にとってウゴービの登場は大きな福音だと筆者は捉えています。
発売後は限られた一部の総合病院でのみ処方されるウゴービですが、いずれ当院のような専門医/管理栄養士が在籍している専門クリニックでも使用が認められ、多くの肥満症患者さんにこの薬剤が届けられる日を切に願っています♫