今回は新しく登場する糖尿病薬についての耳寄り情報です!
2021年6月23日 ツイミーグ(成分名:イメグリミン)の国内製造販売が承認されました。
この薬はミトコンドリアに作用し、インスリン分泌と抵抗性の両方を改善する新しい作用の経口血糖降下薬です。
世界に先駆けて日本で初めて承認されました!
2021年度内に発売予定ですので、待ち遠しいです。(9月16日に発売しました)
この投稿で学べること
■ ツイミーグの基本事項についてわかる
■ ミトコンドリアの働きがわかる
■ ツイミーグの効果、安全性を理解できる
■ ツイミーグの健康寿命に対する良い効果を知ることができる
ミトコンドリアに作用する新しい薬、すごく楽しみです!
凄く期待している薬である分、今回の投稿は専門的で難しい内容を一部含んでいます、ご了承ください。
ツイミーグの基本知識
商品名 | ツイミーグ® |
一般名 | イメグリミン |
規格 | 500mg(のみ) |
適応症 | 2型糖尿病 |
用法用量 | 1日2回 朝夕 1000mg |
食事の影響 | 受けない |
最高血中濃度 | 2.5時間 |
半減期 | 12時間 |
薬価 | 1錠34.4円 1日薬価137.6円 |
販売会社 | 大日本住友製薬 |
・TWIN(インスリンの分泌と抵抗性、両方に作用する)
・IMEGLIMIN(イメグリミン[一般名] )
を足して、TWYMEEG(ツイミーグ)と
名付けられました。
メトホルミンに瓜二つな構造
上図のようにツイミーグは、既存のメトホルミンという薬に姿がそっくりです。
メトホルミンは数ある糖尿病薬の中で一番基本となる薬で、筆者自身も治療の軸にしている非常に良い薬です。
ただ乳酸アシドーシスという命に関わる副作用があり、使う対象をしっかり吟味する必要があります。
ツイミーグは「乳酸アシドーシスの副作用が生じない」メトホルミンとして開発された経緯があります。
ツイミーグはどのように作用するか?
ミトコンドリアの機能をよくする
ツイミーグの作用の理解に欠かせないのが、
ミトコンドリアの働きです。
ヒトにおいては、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの代謝の活発な細胞に数百~数千個のミトコンドリアが存在し、細胞質の約40%を占めています。
平均で1細胞中に300-400個のミトコンドリアが存在し、全身で体重のなんと10%を占めているとも言われています。
このミトコンドリアの役割を一言で例えると
「細胞内のエネルギー工場」です。
ミトコンドリアはATPという細胞内活動に必須なエネルギーを作り出す非常に重要な器官です。
それ以外にも、細胞内カルシウムイオン濃度の調節や脂質の酸化、また免疫反応においても不可欠な働きをしていることが明らかになっており、ミトコンドリアは細胞・臓器・生物の営みにおいて、まさに
「司令塔」のような役割をしています。
ミトコンドリアの働きが低下すると全身の細胞・臓器の働きが低下してしまい、それが原因でおこる病気を総称して「ミトコンドリア病」と呼びます。
ミトコンドリアの機能低下が膵臓のβ細胞に影響し、糖尿病が生じた場合を「ミトコンドリア糖尿病」と呼びます。
ミトコンドリア糖尿病患者は、わが国の糖尿病患者の約1%に存在するとされていますが、見逃されているケースが多いと言われています。
ミトコンドリア糖尿病の特徴
① 母系遺伝の形式をとること(ミトコンドリアDNAは母親からのみ遺伝する為)
② 難聴を生じる
③ ほとんどの症例で病期が進むとインスリンが不可欠
ミトコンドリアって糖尿病に凄く大切な働きをしているんだね!
そうなんです。
母系遺伝・難聴がある・飲み薬でよくならない、これが当てはまる人はミトコンドリア糖尿病かもしれません。
ツイミーグの糖尿病への影響
ツイミーグはこのミトコンドリアに良い働きを及ぼし、細胞ひいては臓器の機能を改善させることで糖尿病にとって良い影響を生じると考えられます。
ミトコンドリアにどう作用するか?
① 細胞内のエネルギー代謝に関わる補酵素「NAD+」を増加させる
② ミトコンドリアに作用し、細胞内での活性酸素の発生を抑制する
では上記①②でミトコンドリアの機能を回復させる結果、具体的に糖尿病に対してどんな作用を及ぼすのでしょうか?
作用機序 | 薬理作用 |
---|---|
膵臓 | ■ 血糖依存的なインスリン分泌の促進 ■ 膵臓β細胞のアポトーシス抑制・β細胞数の増加 |
肝臓 | ■ 糖新生の抑制 ■ 脂肪肝の改善 |
骨格筋 | ■ インスリンシグナルの増強 ■ 糖取り込みの促進 |
上図のように、膵臓・肝臓・骨格筋など色々な臓器にいい影響を及ぼし、色々な側面から糖尿病にとっていい働きを及ぼすと考えられています。
ツイミーグの国内臨床試験の紹介
ここで実際に日本で行われた臨床試験の紹介です!
単剤療法【TIMES1】
試験概要 | 詳細 |
---|---|
対象 | 日本人2型糖尿病患者 213人 |
薬剤 | ツイミーグ(2000mg/日・1日2回) |
比較対象 | プラセボ |
観察期間 | 24週間 |
試験デザイン | 多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験 |
この試験のポイント
・イメグリミンの単剤での効果を見た試験です
イメグリミンを使用したところHbA1cは0.87%改善しました。
改善効果自体はまずまずですが、以前投稿したオゼンピックの劇的な効果と比べると、インパクトは薄いなってのが正直な感想です。
他の糖尿病薬との併用療法【TIMES2】
試験概要 | 詳細 |
---|---|
対象 | 日本人2型糖尿病患者で他の糖尿病薬を使用中の患者 714人 |
薬剤 | 他の糖尿病薬にツイミーグ(2000mg/日・1日2回)を追加投与 |
比較対象 | ツイミーグ(1000mg/日・1日2回)単独療法 |
観察期間 | 52週間 |
試験デザイン | 多施設共同、非盲検、並行群間試験 |
この試験のポイント
・ 他の糖尿病薬と併用しても効果が出るかの検証試験です
・52週間と長期間観察しています。
一番効果がよかったのが、DPP-4阻害薬と併用時でした(HbA1c-0.92%)。
その他の経口血糖降下薬との併用した場合でも、イメグリミンを単独で使用した時より効果が出ています。
唯一相性がよくなかったのがGLP-1受容体作動薬、ちょっと意外な結果ですね。
メトホルミンと似た薬なのに、メトホルミンと併用しても効果がしっかり出たのも驚きの結果でした。
インスリンとの併用療法【TIMES3】
試験概要 | 詳細 |
---|---|
対象 | 日本人2型糖尿病患者でインスリンを使用中の患者 215人 |
薬剤 | インスリンにツイミーグ(2000mg/日・1日2回)を追加投与 |
比較対象 | ツイミーグ(1000mg/日・1日2回)単独療法 |
観察期間 | 16週間 |
試験デザイン | 多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験 |
この試験のポイント
・インスリンと併用しても効果が出るかの検証試験です
・実際には16週の観察以後も、36週間で別の検討をしていますが割愛します。
細かいデータは割愛しますが、インスリンと併用しても効果がちゃんとでました(HbA1c:-0.66%)。
ツイミーグの安全性
単独療法の結果からは、2000mg/日の用量で使用した場合、大きな副作用なく使用できる結果でした。
メトホルミンとの併用では胃腸障害が25.0%とかなり高率に出現しました。似た化合物であることから予想できたことですが、併用の際には胃腸障害が出ないか慎重に使用する必要があると考えます。
SU剤やインスリンとの併用時に、低血糖が生じやすくなりますが、これは当然といえば当然です。
併用する際にはSU剤を減量したり、インスリンの単位数を減量する必要があります。
ツイミーグの注意点
腎臓の働きが悪い人には使用しづらい
ツイミーグは腎臓で排泄される薬剤です。腎臓が悪い方に使用すると通常よりも血中濃度が上昇します。
腎臓の働きが低下した方(eGFR45未満)には現段階では使用が認められていません。
今後eGFRが15~45の方への有効性・安全性が調べられる予定ですので、検証が待たれるところです。
メトホルミンとの併用の注意点は?
前述の通りメトホルミンと同じような化合物であり併用による副作用(消化器症状)に注意すべきです。
TIMES2試験ではメトホルミンとの併用しても血糖改善はしっかり担保されている意外な結果でしたが、メトホルミンを高用量使用している人に効果があるかは今後検証が必要と思われます。
GLP-1受容体作動薬との併用は効果がない?
併用効果が弱い理由が現段階でははっきりしません。GLP-1受容体作動薬によるシグナル経路と、ツイミーグのシグナル経路が被っているんでしょうか?もう少し検証が必要な項目です。
ミトコンドリア作用による健康長寿への期待
「ミトコンドリアの機能を改善させる」これがツイミーグの最も期待できる特徴と考えています。
ツイミーグによりNAMPT遺伝子の発現が増加することでNAD+が増幅し、それにより長寿遺伝子SIRT(サーチュイン)1遺伝子が活性化します。
SIRT1遺伝子活性化は、細胞死の保護・炎症の改善・ストレス制御の活性化に作用します。それに伴い、様々な病気に良い作用を及ぼすことが期待されています。
糖尿病の改善のみならず、筋肉量の増加・肥満の改善・心不全の改善・動脈硬化の改善・神経変性疾患の改善・炎症性腸疾患の改善・慢性閉塞性呼吸器疾患の改善などが期待されています。
ミトコンドリアの機能回復は、糖尿病のみならず長寿遺伝子への良い影響が知られています。健康面、特に健康寿命延伸において様々なメリットがあるのではと非常に楽しみにしています!
まとめ
2021年度中に世界に先駆け日本で発売予定2021年9月16日発売決定- 「乳酸アシドーシスが生じない」メトホルミン
- ミトコンドリアを介してインスリンの分泌・抵抗性を改善
- 膵臓のβ細胞機能の回復、脂肪肝の改善の期待も
- GLP-1受容体作動薬との併用は現段階ではお勧めできない
- メトホルミンとの併用は消化器症状に注意!
- 腎機能が悪い方への使用は今後の検討課題
- ミトコンドリアの機能改善により糖尿病以外にも健康寿命へのいい影響が期待できるポテンシャルあり
愛知県東海市加木屋町(南加木屋駅徒歩3分)に開院する「糖尿病・甲状腺 加木屋たけうち内科」は、新しい治療薬も積極的に取り入れて、皆さんの健康寿命を延ばすサポートを頑張ります。
現在開院準備中です、宜しくお願いします。
コメント
コメント一覧 (4件)
妻がミトコンドリア糖尿病です。
ミトコンドリア糖尿病の患者にもツイミーグは使用できるのでしょうか?
普段はインスリン注射を打っています。
角田さん
こんにちは。
ご質問ありがとうございます。
ミトコンドリア糖尿病は、ミトコンドリアの機能異常を背景にして膵ぞうからのインスリン分泌が極度に低下することにより生じます。
そのため、ミトコンドリア糖尿病の方のほとんどはインスリン療法が必要です。
早期から強化インスリン療法を行い、残存する膵ぞうの負担を減らしていくことが重要です。
ブログで示した通りツイミーグ自体はミトコンドリア機能をよくすることで
(1) インスリン分泌 (2) インスリン抵抗性に働きますが、すでにインスリンを出せなくなっている膵ぞうには(1)の効果は期待できません。
(2)に対しても作用から、インスリン治療の上乗せ治療としてツイミーグの効果は多少期待は持てるかもしれません。
ただ医療保険制度からの視点と申しますと、ツイミーグについては「2型糖尿病」に対して保険適応があるため、「ミトコンドリア糖尿病」に対しては保険での投与は難しいと考えます。
通院されている医療機関の先生にも聞いてみるとよいですね。
日本内分泌学会のWEBサイトもご参照ください。
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=97
私は、空腹血糖値が高い(135)が、A1Cは5.9%です。健診で糖尿病と指摘されました。
素人考えだと糖新生が抑制されるツイミーグはぴったりと思います。先生はどのように思われますか?
y.yさん
コメントありがとうございます。
空腹時血糖値が糖尿病レベル(その割にHbA1c値が正常範囲)であることを推察すると以下の理由が考えられます。
・肥満のためにインスリンが効きづらい(インスリン抵抗性といいます。)
・インスリン抵抗性があると肝臓からの糖新生が増える
・ホルモンの影響(成長ホルモン・ストレスホルモンであるコルチゾール等)
体格や遺伝的背景次第ですが、y.yさんがお考えの通りツイミーグはインスリン抵抗性を改善させ糖新生も抑えることからツイミーグは一つの手かと思います。
ただ仮にインスリン抵抗性がメインの病状であれば、ツイミーグでなくメトホルミンという薬剤を私は最初に用いることが多いです。
いずれにせよ、HbA1c値からはまだ薬剤ではなく食事運動の頑張りが第一かと思います。
通院される医療機関でしっかりサポートしてもらってください。
今後の糖尿病とうまくお付き合いできることをお祈りしています。